数年後、
現実世界のある旅人は とある国を訪れることになった。
内乱がようやく収まったので、そこそこ有名であった彼を招待する、との手紙が届いた為である。
「…さーて。久々のご馳走かな。」
諸国を旅する彼にとって、野宿に乾パンというのが普段の生活スタイル。
宮廷料理なんて、久しくお目にかかっていない。
「ようこそ、いらっしゃいました。」
愛想の良い門番に連れられて、応接室に通される。
それだけならまだ良いのだが、彼等はそのままお茶を入れ始めた。
「君たちは門にいなくてもいいのかい?」
不思議に思って訊く。
「はい、この国は平和ですから。」
門番は当たり前のように答えた。
「牢獄だって、ないんです。 国王様は国民を信頼しておられるのです。
 この度の内乱で国王様の御命を狙った方のことも、国王様は大切になさってます。」
「はぁ…。」
「一度夢で、素晴らしい男の人に言われたそうですよ。
 『死んだら駄目だ』ってね。
 だから つまり 人を殺すのも駄目なんだろう って。
 そう思ったらしいんです。 良い人でしょう?」
門番はまるで我が子を自慢するかのように言った。
 その温かな笑みを見て、旅人は立ち上がる。
「どうか、されたのですか?」
「ええ、ちょっと用事を思い出しまして。」
曖昧に微笑みながら言葉を濁す。
しかし、そんなあからさまな嘘にも、門番は
「そうですか。それでは 王様にお伝え致しましょう。 どの位で戻ってこられますか?」
と笑顔で訊いた。
「そうですね。5分、10年、いえ永遠かもしれません。曖昧なことは大切なんです。」
「はい?」
門番も流石に不思議そうに首を傾げた。
「それと、王様にお伝え下さい。
  干渉者ではない僕には、何をすることも出来ませんが 一つだけお教えしましょう、
  殺すと死は 同義ではありませんよ。
  罪を許すのは勝手ですが、 統制するのも貴方のお仕事です。 と。」
「… 貴方は、 王様の政治を批判されるのですか?」
これまで温和な表情だった門番が、微かに眉を潜める。
「いいえ。素晴らしいと思います。 しかし、 そうですね。 僕の意見ですよ。」
逆に、にこり、と旅人は笑った。
 本当に楽しそうに。
    嬉しそうに。
それは綺麗な笑みだった。
「では失礼します。」
言ったかと思うと、黒いマントを翻し、
 そして 彼は消えた。
 闇の中へ。

その国の王の過去は誰も知らないし、
 その国を訪れた旅人の本名も誰も知らない。


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後書き  (作:風名 2006.12.23 up:2007.1.4 )

なんとなく ある小説みたいなストーリーになった感が否めませんが。
後編まで読んでくれた方への、おまけストーリーでした。
 え? って思われるかもですが、
ちゃんと、図書館メニューの中には入ってませんよ。


国を治める上で、やはり「律」や それに反した場合の「罰」は必要だと思います。
 人間が その国に住む限りは・・・。
この話の場合、この王の人徳によってこの国が成り立っているようですが、
彼が死んで、 どうしようもない阿呆な人が王座に座れば、どうなるでしょうか?
考えたくも無いけれど、 
 でも、 国が滅ぶのは見えていますし
それに その人間を罰する 律がない。
律が無ければ、彼等を殺すことも出来ますが、
しかし、それは 道徳的に如何なものでしょうか?
 面倒くさいけれど、律、というものは やっぱり必要だと、
そう思いながらも
 校則に対しては反抗的な普通の中学生をやってたりします。。
(だってあんなの、先生が生徒を思い通りにする為だけにあるんじゃん?)


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