簡単に言うと。
 少年は無実の罪で拘束されていた。
彼は、普通の家に生まれた普通の少年だったらしい。
父が居て、母が居て、妹も居た。
 それが突然 理由は分からないが警察に追われて
捕まって 拷問、という訳だった。

「・・・心当たりは?」
青年は困り果てて言った。
そこに、あの笑顔は無かった。
「ないですよ。
 強いて言うなら 生まれ ですか? どうも僕の両親は常識人ではないようなので。」
痛みは感じなくなっていた。
軽くなった腕を軽く振りながら 少年は言う。
「変わってますからね。」
「常識人ではない?」
青年はその言葉に異常に反応した。
 この世界の伏線は 小説のそれより露骨だから。
「そうです。金銭感覚や、その他 日常の過ごし方等が不自然なんですよ・・・というより、
 自分で自分のことをするのに 慣れていないというか・・・。」
少年は青年の反応を不思議に思いながら当たり前に答える。
「そう・・・。」
あっさりとした反応に戸惑いながら、青年は思考していた。
少年自身は正直に答えただけで、悪くないのは分かる。
それに彼の答えの所為で青年が考えて込んでいる、ということが分かっていないことも分かる。
それが、幸か不幸かは分からないけれど。
「どうか、しましたか?」
「あ・・・いや。
 一つだけ、可能性があるんだけど...」
青年は言い淀む。
 彼にしては珍しく、迷っていた。
その可能性は、 否、 もう絶対と言って良いほどの確信を持って言えるその事実は、もしかしたら少年は知らない方が良いのかもしれない。
 けれど、
 この拷問の理由を知ることによって、救われる道が開かれる可能性も考えられる。
―― 君ならどうするだろうね。
この場に居ない、彼女に向かって彼は問いかけた。
 こんな場合、 君なら・・・
―― 訊くまでも無い、か。
何も知らぬより、全てを知った上で 選択をする
  彼女の行動の根底は それだった。
「君は・・・というか、 君のお父さんは、さ。」
浸っている暇は無い。
朝になれば、この世界から追い出されてしまうのだから。
告げると決まれば、
 直ぐにでも告げなければ。
「・・・王族、なんじゃないのかな?」
「え?」
「分からないけどさ。
 それで、辻褄が合うことも 結構あったり・・・?」
「おーぞく、ですか?」
作った笑みを浮かべるも、 少年の顔はそのまま強張ってしまった。
「そうそう。 追放された王様の子孫を捕まえるぞ、っていう噂 前に聞いたのでね。
 なんとなく、そう言う感じかな と思うけど。」
言葉を止め、不敵に笑う。
 本当にこの世界は なんというか
      …… おもしろい。
伏線 なんてものじゃなくて、 それはただ単に解答だったのだ。
答えが先に発表されるクイズなんて最早クイズとして成り立ってはいないが、 実はそれは盲点になり得る訳で。
「…もし、」
近くで聞こえた声に、我に返る。
「もし万が一それが本当としましょう。それでどうしろと?」
「…分からないな。
 復讐をして王になるか、この俗世を捨て僧になるか、そんなのは僕の知ったことじゃないし、
 それに、 正直どうでも良いよ。関係ないし。」
少年の目が驚きに見開かれる。
「貴方は…な」
「間違ってもらったら困るんだよね。
 僕は君に対して何もしてないし、何も出来ない。
 別に助けに来たわけじゃないんだ。 無力な僕なんかに助けてもらっても何にもならないしね。」
座っている彼を遮り、青年は言葉を紡ぐ。
「というか、 此処がどんな世界か知ってるんだろう?君だって。
 朝になれば元通り。君は拷問を受ける羽目になる。
 何にも変わっていないんだ。 というか、今この時も君の身体は叩かれてるのかもしれない。
 それは救えないんだ。 僕の領域じゃないし、 僕は干渉者じゃないからね。」
「…」
少年は、真っ直ぐに青年を見上げていた。
 そして、呆れたように首を振る。
「そういうの、最低って言うんです。 それとも世渡りが下手と言うんですかね?
 折角、感謝されてるんだから、 その辺り適当に誤魔化せば良いじゃないですか。
 はっきり『手伝えない』って言うより、『今日は忙しいのでその内に』と、曖昧にしとく方が
 好まれるんですよ。 俺は貴方のことが 気に入りかけてたのに。」
弛んだ空気に語尾が消え、少年は俯く。
牢獄、という暗い空気の中 彼等の息遣いだけがはっきりと聞こえた。
月明かりが増している。
 少し長居をしすぎているのかもしれない。
それでも 放っておけなかった。
「ありがとう。 君という通りかもしれないね。」
重い沈黙の後、僅かに弾むような調子で彼は言った。
釣られて少年も顔を上げる。
「じゃぁ、僕からの君へ贈ることができる言葉を最後に 二つだけ。」
 にっこりと。
最初に現れたときの笑みで
  青年は告げる。

 決して 死んだら駄目だよ。

    現実世界でいつの日か会おう…きっと。

そして、彼は自分の仕事へと戻って行った。
 最後に見えたのは、少年が手を伸ばす仕草。
その彼の、 初めとは違う 
   生き残ろうとする 決意だった。


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後書き  (作:風名 2006.12.23 up:2007.1.4 )

一応 これで終わりです。
おまけは、まぁ読みたければ読んでください。
でも 蛇足ですよ。かなり。

この男の人の職業は、 結構昔からの持ちネタだったりしますが、 しかしその時の
登場人物は 全くの別人だったわけで...
なんか哀しかったりします。

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