生きるか死ぬかの瀬戸際なんて
慣れた人にとっては 日常なんです。
だけどその反面
死にそうになっている人にとっては
生きるという選択自体が 非日常だったりします。
++危険信号点滅地帯 〜 Yellow Zone 〜++
いつから、 其処に居たのかは分からない。
兎に角、 俺も 由美もそう言う種類の人間だった。
普通の人と外見は変わらない上、
嘗ては家族もいたし、何もかも普通の・・・ そう 正しく普通の人間だった訳で
「あと一匹!」
「おっす。」
だから、何故に自分たちが帯刀しているのかも分からなかったし
「・・・ お疲れ。」
「推定通り、十分ね。 倒した数は三十だよ。」
普通の人には見えない化け物が、何故に見えるのかも分かっていなかった。
この間までは。
だから
「桜満も疲れたでしょ?」
「由美も、今日は大活躍だったな。」
「今日は、は余計だよっ。」
目を覚ました今、できることは
「あーでも、形の無いものってこうも手応えが無いのか。」
にこにこと笑いながら剣を振るってた時代を仮想して
「破壊士相手じゃなくて良かったよね。」
「だよな。」
自分たちを‘拾ってくれた’存在を倒すことだけ。
「かなり派手にやっちゃったな。」
「だね。」
俺たちが図書館から帰ったその時には、もう既に紅赤は襲われていた。
正真正銘の‘影’が、部屋の中に蠢いている様子は さながら何処かの地獄のようで。
その瞬間に、戦闘モードに入ったのだが…。
ちらり、と被害者に目をやる。
彼女自身がサバイバルナイフを持って俺たちの前に現れただけあって、流石に震えてまではいないようだったが。
大量虐殺の現場をもってして、驚愕していない訳は無かった。
「影の癖して、斬っても姿が残るんだな。」
黒い布のようなものが、部屋中に散乱している。
「・・・この後悪夢で呪われたりして・・・。」
由美が声色を変えて言った。
「まさか。」
「ありえるかもよ。」
鼻に掛けて言った由美は、そのまま紅赤に向き直る。
「大丈夫だった?紅赤ちゃん。」
「はい。ミーヤとリンも傷無く。 お2人のお蔭で命拾いをしました。」
彼女の言葉に、部屋中を見渡す。
と、部屋の隅に 見覚えのあるバクが2匹いた。
「うちに連れ込んだの?」
「すみません・・・。逃げてきたんです。
この布たちに追いかけられたまま、仕方なく私に助けを求めて・・・。」
―― 妹さんがいないかどうかを ちゃんと確かめて入ってきたようですよ。
と、‘友達’の弁護をする紅赤だった。
まぁ、桜満の方だってこの期に及んでそれを深く追及するつもりはない。
妹がこの場にいなくて良かった、とは思うが。
それにしても、入っても良いか確かめるなんてこと、バクに出来るのだろうか?
…出来るのだろうな、と思った。
何しろバクは想像上の動物。
こうして目の前に存在していることすら、危うい動物なのだから。
「違うか。」
案外、破壊士のうちの誰かが自分たちが見た存在をそのまま描いたのかもしれない。
夢人の嘘を見抜いた後に。
「そんな奴でも、こんな虐殺はしてないよな。」
幾ら夢人の兵士だからと言って、ここまで大量には・・・
思いながら、虚しくなる。
俺は何の為にこんなこと。
これで俺のこれまでの生活は終わりだ。
雇い主に歯向かった時点で、 本当に終わった。
「桜満さん?」
紅赤が不安そうに此方を見る。
事情は、説明した事はなくても 薄々分かっているらしい。
思ったより頭の良い人間のようだった。
… 最初にナイフを持って現れたときは恐ろしかったけど…。
「・・・すみません。私のせいで・・・。
でも 本当に嬉しかったです。 ありがとうございます。」
その、表情を見て、言葉を聞いて、
俺はそれだけで 考えるのを止めた。
友人を救ったんだ。
それだけで良いじゃないか。
俺の立場はどうでも良い。
由美には家族がいないし、彼女が手伝ったのは彼女の勝手だ。
もし、妹の立場が危うくなるのならば、先輩に任せよう。
先輩は 何にも拘っていないのだから・・・。
思考して、安堵する。
妹の無事さえ確かなら、 桜満にとって必要なものは他に無いのだ。
その時
唐突に ドアが開く音がした。
「・・・おーっす。後輩達。」
「ただいまぁ。」
俺の背筋がぞくりとする。
おい、 嘘だろ?
ゆっくりと振り返った。
まだ、此処にはバクが居るのに。
まだ、戦闘後の片づけをしていないのに。
悪い夢でありますようにと 願う。
夢なんてまっぴらなのに、 祈る。
それでも其処に
妹と先輩は存在していた。
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後書き (作:風名 2006.11.23 up:12.26 )
危険地帯(略)は長くなったので、前編後編にわけます。
桜満君がシスコン気味になってきたのが困り物ですが、
でも 家族愛は結構好きだったりします。
某小説の影響受けすぎてるなぁと思いつつ。
続きも、是非読んでくださいね。
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