君は
君はどうして 此処にいるの?
* *
* *
真っ赤な空を見上げて、旅人は小さく溜息をついた。
もう時間だ。
「さぁ、入り口を探そうか。」
* *
君は聞いたことがあるだろうか
夕焼けの街の伝説を
その扉が開かれるのは一日のうちの僅かに一瞬
その先に広がるのは輝く桃源郷(みやこ) セントレア
* *
紅の光が砂漠を染めた。
旅人は小さく息を吐く。
右手の空が徐々に暗くなっていく。
砂漠の闇が生み出すのは、遥かに続く孤独だけ。
けれど旅人は気にならなかった。
幸せなんか求めちゃいない。
求めているのは街への入り口。
* *
昔、其処は無であった
古のその場所は 無以外の何でもなかったのだそうだ。
魔物が住んでいた、とも、
魔力に満ち溢れていた、とも、
ただの砂漠だった、とも伝えられている。
真実は分からない。
けれど其処は歴史のある街になった。
石畳の広場の賑やかな喧騒。
けれど決して人々は争わず、そこに溢れるのは温かな人間(ひと)の心。
夢ではないそんな街に
しかし 行き着いた人間は多くはない。
だからそこは伝説の街
訪れられる人間は、殆ど無いに等しくて
* *
いつだったか、力を失った魔女が言った。
―― 死ぬならばセントレアで死にたい と。
どこだったか、親を失った少年は言った。
―― 夕焼けの砂漠には天国があるんだ と。
しかしそれはあくまで伝説。
信じるものなどいなかった。
* *
辺りはすっかり闇に呑まれ、残ったのは静寂のみ。
旅人は小さく舌打ちをする。
そして思いきり、心の底から叫んだ
「伝説なんか嘘なんだ」
声は空しく空へと響き、
やがて闇の中へと消えていった。
* *
様子を見ていた少年が、小さく寂しく笑っていた。
隠れるところのない砂漠で、
しかし、旅人の目の届かない場所から。
「心の眼が使えないんだね」
彼は小さく、哀しく呟く。
その頬には、涙が二筋伝っている。
「可哀想な旅人さん」
少年は拝むように手を合わせるとゆっくりと客人に背を向けた。
彼の瞳に映るのは、艶やかなまでに輝く光。
賑やかな街の夜の風景。
扉は閉じても 景色は映る。
信じるものの瞳には。
* *
夕焼けの街、セントレア
幻想の中に生きる街
あなたに夢は見えますか?
* *
今も何処かに
街は 眠る。。。
* *
* *
遠い未来で少年が歌う
この世界を平和にしたいと。
街の伝説は失われ、
荒廃した筈のその場所は、しかしそれでも美しかった。
堕落した幻想に足りなかったものを呼び込む為
その少年は仲間を集めた。
黒、赤、青・・・と正義の剣を。
彼等は、色の満ちた世界で尚、輝く平和の光を放つ。
* *
―― なぁ、そこの旅人さん
蒼い髪の少年は言った
―― 平和な色世界へ、ようこそ
* *
遠く離れた場所からは、
にこやかな令嬢が、外国人客を案内する。
街の外の砂漠を見渡し、
彼女は笑顔を絶やさない。
「これを越えた先にあるのは、首都であるセントレアです」
* *
街には賑やかな喧騒が聞こえる
誰の瞳にも映るそれは、
やはり美しい街だった。
* *
遠い未来の夢も添えて