その瞳に映ったものは

紛れも無い タカラモノ



*夕焼けの街*



少年は一人立っていた。
真っ青な空の下、何も無い大地の上に。
空は何処までも透き通り、大地は何処までも続く。
夢ではなく、 空と大地以外には何も見えないところに彼は居た。
「えーっとこの辺かな。」
小さな声で呟いてみる。
見るからにみすぼらしい服装に、大きな荷物。
何も知らない人間は、貧しい階級に生まれ捨てられた学の無い孤児だと思うだろう。
・・・しかし彼が只者でない事は、その両眼より判断できる。
美しく光るそれは世界の英雄達のそれと同類の物である事が、少しでも人を見る目のある人間には分かる筈だ。
「ちょっと時間に余裕があるな。」
少年は荷物を下ろし、空を見上げる。
これまで見たどの空よりも、深かった。
色の問題ではなく、何と言うのだろう。
清潔で朗らかで それでいて暗い・・・そんな雰囲気。
「ほら、見てみろよサルヴェ。
 こんなに綺麗な場所が、まだこの地球(ほし)に残ってたんだな。」
ジャケットのジッパーを少し下ろし、その中に向かって呟く。
その声に反応して、小さなキツネリスが顔を出した。
キョロキョロと周りを見回して、小さくクーンと鳴く。
「だろ?
 良いとこだよな。嬉しくなるよな。」
少年は再び空を見上げ、彼女の顎を優しく擽りながら笑う。
これまでに訪れた所は全て汚れていた。
人間がいる、ということだけで全て。
地球の美しさを残している所なんて何処にも無い。
空は濁り、大地は煤け、森林は壊れた。
この世界は終焉へと歩んでいる。
小さく溜息をついてみた。
・・・空気が澄んでいる。
「久しぶりだな。こんなの。」
それとも、初めてだったかな。
そのまま、大地の真ん中に腰を下ろした。
サルヴェがそのタイミングを見計らって上着の中から外へと這い出てくる。
「ねぇサルヴェ。  人間は何をしたのかな?」
クゥ、と、考え込むようなその鳴き声に、少年はカラカラと笑う。
「分かるわけ、ないか。」
哀しそうなその瞳に、サルヴェも何かを見たのだろう。
肩の上に這い登ってくる。
静かにしっぽを振りながら、彼女は少年を慰めているようだった。
少年は再び静かに笑う。
「お前は優しいよな。」
人間を責めない彼女達は、一体何を思ってこの地球の終わりを迎えるのだろう。
もしかしたら、それも自分達の運命だと 諦めているのかもしれない。
声では笑ってみたもの、唇が上手く上がらなかった。
―― お前たちまで巻き添えにするとか、最悪な生物だよな。
此れまで見てきた数々の物を思い出す。
ゴミの山、餓死寸前の人間、濁った水。
所狭しと並ぶ商品、天まで届くかと思われるような高層ビル。
全ての指に宝石が嵌められた醜い手。
そして・・・・・・
「うぅ...。」
知らず知らずのうちに涙が零れていた。
サルヴェが不安そうに頬を舐めてくる。
「大丈夫だよ・・ごめん・・・。」
言いながらも涙を止められなかった。
あの光景が甦る。
少年は小さな友達をぎゅっと抱きしめた。

真っ赤な空。
 真っ赤な街。
飛び交う飛行機。
 黒い雨。
逃げ惑う人・・・人人人。
機械音。爆音。悲鳴。絶叫。断末魔。
硝子片に金属片に肉片
鉄骨も木材も道を覆い隠す。
指し伸ばされた腕が、
 目の前で崩れ行く。
護ろうとしてくれた背中が
 一瞬で滅び去る。
逃げて、
 逃げて、
  逃げて 
あの日の声が
 まだ頭の中で聞こえてる。
悲痛で、
  心から響く叫び。

貴方だけでも
 貴方・・・だけは 助かって・・・・・・

冷や汗が身体を濡らす。
顔に温かいものを感じた。
驚いて視線を下ろす。そこに茶色のふわふわとした物体が見えた。
サルヴェの耳が揺れている。
ゆっくりと頬を摺り寄せてくる彼女に少年もそっと顔を寄せた。
―― 忘れないで。 他にもいっぱいあるでしょ?
声が聞こえたような気がした。
否、サルヴェは確かにそう呟いた。
「ありがとう、サルヴェ。」
涙を拭い、顔を上げる。
クゥ、とサルヴェが微笑んだ。
そう、旅の間に見たのは地獄だけではない。
 子供の旅だと知って、自らも貧しいのに食料を分けてくれた老人。
 誰かれ構わずみんなで盛り上がる祭り。
 街のおばさんに編んでもらった手袋。
 そして何より、
    あの人の好意。
    あの人がくれたもの。
ふと顔を上げる。
地平線がほんのりと赤かった。
少年はゴシゴシと目を擦る。
 小さな影が浮かび上がって見えてきた。
影の中には光が更に宿り、そして耳には楽しげな喧騒。
 ・・・  夕焼けの街に着いたのだ。
「・・・・・・ この街はどんなところだろうね。 サルヴェ。」
少年の瞳に、もう涙は無い。
小さな友達ににこりと微笑みかけながら、彼は続けた。
「よし、行こうかサルヴェ。
 幻想の街と呼ばれる、あの場所へ。」
キツネリスが小さく鳴く。
その声もまた、決意に満ちていた。
彼等は2人、前へと歩く。
  その旅が終わるまで・・・。


彼等が去った後に残ったのは

夜の静寂だけだった。



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後書き  (文:風名 絵:あーぽん 2007.6.3)

うーんと 駄文ですみませんm(_ _)m
夕焼けの街のお話、それから 個人的に ペンネームの由来
 風の谷のナウシカ・・・ より キツネリスさん(笑)
と 先日はまってた(一巻しか読んでないけれど)のキノの旅のイメージで。
・・・あーぽんのイラスト めっちゃ 可愛いっ!!
とっても嬉しいんですけど・・・ うわぁお みたいな。
少年の髪の毛って赤かったんですね・・・ いやーほんと可愛いわぁ・・。

       by 風名


文字(小説)を絵にするのははじめての試みですよ〜
家の机に向かった時はマンガだったんですよ^^;

ぶつけ本番で書いたら一回失敗したのでこれは2個目(笑

       by あーぽん


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