コーヒーには 何も入れない
豆の苦味が好きなんだ。
お茶菓子も後回しにしてくれるかい?
今は1人だからこれで良いんだ
寒い日にはこれが一番
*激甘プリン*
僕はいつものようにいつもの席で君を待つ。
窓の外は雪。
熱を溜めたアスファルトは、ふわりと舞い降りる妖精を一瞬で溶かしてしまう。
待ち行く人は誰も淡雪になど気を止めない。
コートの前をしっかり握って、俯きがちに駆けていく。
たまに通る男女の組は、しかしお互いを見るのに忙しくて。
人の心は繊細になったというが、しかし、自然を感じる心は、鈍感になってしまったのだろう。
僕はぬくぬくと暖房のかかる店内で、ブラックのコーヒーを一口啜って君を待つ。
窓の外には雪、そして沢山の車。
クラクションの音が遠くに鈍く聞こえる。
運転手はハンドルを叩いている。
渋滞なのだ。年末だから。
師走、という言葉はよく出来ている。
しかし、急いでいるのは師ばかりではない。
子供だって、弟子だって、どんなヒトでも余裕はない。
僕はだけど、のんびりとコーヒーを口に運んで、君を待つ。
この時間が幸せ、だなんて言わないけれど、この時間を持てないヒトは不幸だろうなと思った。
僕には、ヒトの人生をどうこう言う権利はないけれど。
僕はおかわりのコーヒーを頼み、入り口を確認しながら君を待つ。
君はこの雪が見えているだろうか。
積もりもせず、瞬間に消えてしまう儚い妖精…誰にも気付かれずに存在する小さな幸せに
君は気付いているのだろうか。
僕は通りへと目をやる。
街はキラキラと着飾って、灰色の雲を吹き飛ばす。
だけど彼らは次から次へ空から順に落ちてくる。
僕は二杯目のブラックコーヒーに口をつけながら、君を待つ。
ショーウィンドウの前にヒトが2人。
この時期に増える男女の組。彼らはお互いのことしか見ていない。
女は真っ白なコートに身を包み、ふわふわの手袋を付けて男に笑いかける。
その笑顔が眩しかった。
否、
眩しい君に重なった。
…君は今、どんな格好をしてるのだろうか。
寒さを感じているだろうか。
雪は見えているだろうか。
あぁ、これではヒトと一緒だ。
僕は君しか見ていない。
雪に映るのは君だけなんだ。
チリン、と小さくドアの鐘が鳴った。
いらっしゃいませ、と店員の静かな声が言う。
街を彩るクリスマス。
軽快な鈴の音を混ぜる音楽が、店員の声の後を引き継ぐ。
先ほどのカップルが、そのまま建物に入っていく。
女の幸せそうな笑顔を、男は嬉しそうに見つめている。
彼らはお互いしか見ていない。
僕には君しか…
「おまたせ」
聴きなれた声に顔を向けると、君が僕の前にいた。
黒いコートは妖精をうけとめ、白の斑点と化している。
ゆっくり彼らが消えていくのを眺めながら僕はにこっと笑いかけた。
「これ、お詫び。」
君の手には、小さな雪だるまが乗っていた。
ゆき…だるま?
僕は首をかしげる。
「あのね、雪降ってきたでしょ。だから、なんか雪だるまほしくなっちゃって…
だけどね、雪、積もらないでしょ。」
だからおそろいのお人形
君ははにかむように笑いながら、手のひらに乗った雪だるまを一つ、僕の手の上に落とした。
店員が机の横につく。
君は僕の瞳を覗く。
うん、それで良い。
君の雪には僕がいて、僕の雪には君がいる。
僕らにもお互いしか見えてない。
僕は小さく頷いた。
「じゃぁ、いつものでお願い。」
―― とびっきり甘い奴を
彼女がにっこりと幸せそうに笑う。
窓の外には雪、行きかうヒト、沢山の車。
此方側には僕と君。
そしていつもの激甘プリン。
僕らの幸せは、いつもここにあった。
とろけるプリンに バターを乗せて
ザラメを塗して
餡蜜かけて
少しあっため 砂糖を三杯
キャラメルソースは要らないわ
だってとっても苦いもの
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後書き (作:風名 2008.12.12 up:12.14 )
友情も 恋も 純粋に 真っ直ぐであってほしい
それが 風名の願いです。
本人が捻じ曲がってるから、でしょうか。
自分が気紛れだからいけないんだけど、
一番 君の声が聞きたい時に
君が反応をくれないのは 何でだろう。
ねぇ 僕はさ
君といられることが幸せだったりするんだよ
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