毎日を楽しむために生きる幼子だから。


++ world ++


年が明けて。
店頭に、路上にだって生えてるだろう雑草が並ぶようになり。
帰省先から戻ってきた彼女との、今年初のデートで、喫茶店に入ってる僕は、
大体の年末報告を終えて、一息吐いていた。
追加で頼んだケーキを待ちながら、ぼんやりとBGMで流れている三味線を聴いている。
店はあまり込んでいなかった。
それは、そうだろう。時間が少し外れているのだから。
こんな時間を彼女と過ごせるなんて、幸せ者だ、僕は。
そう思う。
彼女と出会って、二度目の冬。
少し僕は我儘になって、彼女は少し幼くなった。
鞄に付いた雪だるまのマスコットを思いながら、僕はコーヒーを啜る。
こうやって、毎年の冬を迎えたいものだと思う。
「ねぇ、そんなに難しい顔して、何考えてるの?」
先程から何をするでもなくずっと僕の顔を覗き込んでいた彼女は、唐突にそんな言葉を口にした。
初めてではない。
周りの人からよく言われることだった。
だけど。
だからと言って、僕は何も答えを持っていない。
「別に。そういう顔つきなんだよ。」
「嘘。いつももっと楽しそうな顔をしてるよ。」
「そう?」
「うん、そう。」
―― 私の話を聞いてるときも、私に向かって話す時もずっと。
彼女は微笑みながらそう言った。
嗚呼、それはよかったと思う。
仏頂面で彼女の話を聞いてるような、心のない男だったらどうすれば良いのだろう。
「で、何考えてたの?」
「…いや、別に。」
「えー教えてよー」
彼女は小さな子供のような駄々のこね方をする。
でも似合ってるから、嫌だとは思わない。
「でも、何も考えてないんだよ。」
僕は繰り返し、同じ答えを口にする。
「ほんとに?」
「ほんとに。」
僕は三歳になった姪っ子を宥めるのと同じしゃべり方で彼女に向かって話していた。
たまに面倒を見に行く。とても可愛い。
姪っ子と彼女では、だけどどっちが可愛いのだろう。
…比べられないか。
「ま、強いて言えば
 三味線の音って和むなぁ、とか、
 店の外は寒いんだろうなぁ、とか、
 僕って 幸せだなぁ… とか。」
姪っ子と彼女はどっちが可愛いのか、というのは口にしない。
口にしたら、絶対拗ねられる。
そんな僕の思考を他所に、
「ほら、いろいろ考えてるじゃん。」
勝ち誇ったように彼女は笑う。
なら。
と僕は、彼女に向かって口を開いた。
「リコは何を考えてたんだ?」
「……あたし?」
予測していなかった質問であったように、彼女は目を見開いた。
しかし次の瞬間、ふふんと笑う。
「雄くんは何を考えてるのかなぁ…? って。」
「まぁ、それはそうだろうな。」
野暮な問いだったようだ。
しかし、彼女は僕の相槌を聞かなかったかのように続ける。
「周りの人間全てを愛して、尚且つ彼女であるリコに特別の愛を捧げるには、
 どうすれば良いのかな、 って考えてくれてるとうれしいな、 とか。」
僕の様子を伺うように、彼女はそこで言葉を止める。
いや、どう反応しろというのだ。
僕は少し首を傾けて、続きの言葉を促す。
彼女はにこっと更に笑んで言葉を続けた。
「そんな聖人みたいなこと言っても、所詮僕らは社会人成り立てほやほやで。
 お年を召した方々から言わせれば、何をほざく青二才!って感じで、
 ならば、別に そんな難しいことを考えなくてもいいかな。って
 そんなこと 考えてるのかな… 雄くんってすごいな! って」
考えてた。
彼女は、そう言った。
「どうかな?」
当たってた?
彼女は無邪気に笑う。
僕は何と言って良いのか分からず、仕方なく首を振った。曖昧に。
肯定も否定も表さない程度に。
彼女は詩人だ。
僕は小説家だ。
それが二人の言葉の違い。
「お待たせしました。」
ウェイターが絶妙のタイミングでケーキを僕たちの前に置く。
彼女が頼んだフロマージュチーズケーキ。
僕が頼んだコーヒームース。
「うわぁ、美味しそう。プリンじゃないのも、たまには良いよね。」
彼女の歓声を調味料に。
「雄くんのももらうねー」
「いいけど…って、うわ、クリーム全部取るなよ。」
「別に良いじゃん。」
美味しそうに、クリームとムースを一対一の割合で頬張る彼女を見て、僕は大きく溜息を吐く。
まぁ。
まぁ、いっか。
彼女のこの幸せそうな笑顔が見れるなら。
「それで
 本当のところは、僕の顔を見ながら、何考えてたんだよ、リコ。」
僕は、残った、ただほろ苦いだけのムースを口に運びながら彼女に問う。
彼女は、今度は自分のチーズケーキに向き合いながら、何でもないようにこう言った。

「雄くんとこんな一日が過ごせるなんて、
 やっぱりこの世界って 美しいトコだよね。」


そうやって僕らの思考は重なるんだ。

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後書き  (作:風名 2010.1.4 up:1.4 )

新年一発目は…やっぱり RADWIMPSの曲の影響を受けてるような気がします。
草食系男子、という言葉が 流行語にノミネートされたりもしてますが

どうなのかな。

熱い男の子も好きだけどな。

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