*rainy prediction*



雨、雨、雨。
この一週間降り続く雨は、何かを予感しているようで。
不安。
それはただ只管に戦場の俺を襲う。

ナニユエコンナトコロニイルノダロウ

何度か考えた。
何故、此処は君の側ではないのだろうか、と。
けれどその度に同じ結論へと辿り着く。
成り行きだ。
成り行きでここまできた。
他に能力を持たぬ俺だから、
他の能力を持つ君と離れた場所にいる。

―― ねぇ、なんで戦うのよ?
君はそんなことを、初対面の俺に訊いたんだ。
分かる筈もないのに。
成り行きに理由なんてないのに。
―― なんで君は此処にいるんだよ?
先に訊いたのは、けれど俺だったのだっけ。

―― お互い理由なんて 持ってないのね
そういって俺等は笑った。

政府の交渉役として机に着く君と、
現場の指揮官として剣を握る俺は
立場としては対極だったけれど、目指すところは同じだった。
交戦を主義とする政府の中で戦争反対の立場を示す政治家の君は、それは異端な平和主義者で、
剣を振るうのをよしとしない将軍の俺も、それはそれで異端な平和主義者で。
だからかな。
気があった。

俺達が出会ったのも雨の日だった。
俺は次の日の総攻撃に絶望しており、
君は海外交渉が上手くいかず、意気消沈して軍の視察にきたのだった。

―― 戦争反対の二人が戦場で出会うなんてね

皮肉に、哀しそうに、
けれど美しく笑った君の顔は忘れない。

―― 世の中は なんて酷いのでしょう。

その戦いの結末なんて覚えてない。
戦場から帰って直ぐ、俺は君と暮らすようになった。
と言っても、お互い出張の多い身で、
一緒に過ごした時間はとても少ないけれど。

「・・よかったぁ、今日は帰ってきてくれた」
にこっと笑った君が僕を家で待っていたのも、その日の他には思い当たらない。
いつも君は残業だったから。
俺は冬の訓練をした後で、身体も心もボロボロだった。
だから君の笑顔が、染みるように嬉しかった。
「ただいま。」
「おかえりっ。」
君も疲れているだろうに、にっこりと優しく微笑んでくれる。
俺は幸せを感じた。
戦争の世の中だけれど温もりがあった。

その日が、丁度一年前の今日。
バレンタインデーと名の付く、恋愛の日だった。

君が用意したチョコレートケーキを二人で食べて、
その日は夜まで語り合って。
俺は君を守り抜くと決めた。
君の側にいると決意した。
幸せだった。
それはいつまでも続くかに思えたのに・・・。

「長期遠征、ね・・・。」

現実。
世の中は酷いんだ。

今の俺の目の前には雨のカーテンが広がっている。
俺がこの任地に赴いたのは五ヶ月前のことだった。
『死も覚悟しろ』
戦況が危うくなっていることを示す上官の言葉と共に、俺は部下達と此処へきた。
きたくなかったけれど、
戦う他に能力もないからやってきた。

膠着状態の続くこの戦場において、俺達に勝ち目などない。
だから文字通りに俺は
『死を覚悟』している。

「部隊長! 援軍が着ません。」
部下の声が遠くに聞こえた。
ほら見てみろ。
上官の言葉には真意があったのだ。
別に、死を覚悟して戦えなんて意味じゃない。
『死に場所を与えてやる』という意味なんだ。

一ヶ月前
君からの手紙が届いた。
「停戦交渉に行きます。
 上手くいけば、また貴方に会える筈。」
短い、それだけの手紙だったけれど、
それは、彼女もまた死を覚悟したということなのだと分かった。
何せ俺等の敵は、
今、最大に俺達を嫌っている国なのだから。

君の前任者であった交渉人は、殺されている。
その前も、その前も。
それがたった一ヶ月の間に起こったんだ。
そのくらいのニュース、君が手紙に書かなくたって知っているよ。

君からの手紙はそれまでだった。
どうしたのだろうか。
雨。
不安。
・・・・ただただ胸が騒ぐ。

「部隊長!もう駄目です。
 我等だけでも特攻しましょう!!」
「もう少しだ。・・・命令を待とう。」
「けれど・・・」

俺はいきり立つ部下を宥めて、空を見上げた。
どんよりと重い雲。
この雲の上には、青空が広がっているのだろう。
君なら上手くやれると信じてる。
だから、
だから早く。 

君の作ったチョコレートケーキが食べたいんだ。

「敵が、進軍してきます。」
「我等の食料もあと二日分しかありません。」
「ご決断を!!」


いつまでたっても雨は止まない。

***

後書き(2008.2.11 UP2.20)


もうすぐバレンタイン!!ということで作っちゃったお話。
実は、推薦入試前日だった!! とか言うイワクつきのものだったりします。
久々にもちキャラを使わなかった、ということで、
いつもの如く、いつものような物語になってしまっていますが・・・
未発表もちキャラが軍人さんだからでしょうか?
戦争モチーフ多しです。
えーと イメージ的には175Rの「雨のち君」(内容は関係ないけど)と、それから城山さんの「落日燃ゆ」(交渉したけど失敗、みたいなとこが。)。
あと 雨と言う面だけで言うなら他に、「死神の精度」(もうすぐ映画公開!)ですかね。
ま いろんな要因があって 雨降ってますけど。

心なし、前日に物語を書き上げた時のテストは結果が良いような気がします。
気のせいでしょうか?(気のせいだ)



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