貴方と並べた 小さな夢をもう一度



+雛祭り+


裸の木々に、コートを抑え小さくなる人々。
深く被ったベレー帽を奪おうとする風は、まだ北のものだった。
二月も終わったと言うのに、まだまだ寒い。
私は帽子を押さえ足早に歩きながら、身震いをした。
寒いのは苦手だ。
特にコンクリートの冷たさにプラスされるこの天候は辛い。
生まれた街ではあるものの、慣れる事は出来なかった。
それにこの季節は寒いだけではない。花粉も降ってくる。
それが春に向かっている兆しだ、と言われればそうなのかもしれないけれど、私はその位で、花粉症の被害を赦せるほど優しくなかった。
寧ろ腹立たしい。
人をこんなに苦しませているにも拘らず、「温かい春の到来ですね」なんてにこにこと笑って歓迎されている春が。
考えているだけで嫌になる。
 そんな俗世の戯言みたいなことを考えていて、 私はつい、前を見るのを忘れてしまっていた。
俯いた視線に映るのは、薄汚れたアスファルト。
 人の足、人の足、人の足・・・・・・
ドスッ、 と
強い衝撃と共に、突き飛ばされる。
咄嗟に手を突き顔を上げる、と目の前には大柄な男の人が居た。
スキンヘッドに、刺青。如何にも怪しい感じの男である。私は瞬間怖気づいてしまった。どう見たって普通の 一般の人じゃない。
しかし、彼は全く気付かなかったようだった。
キョロキョロと誰かを探すように周りを見ていたかと思うとそのまま立ち去って行った。
小さく溜息をつく。今更のように心臓が鼓動を速くなる。
「なんなのよ全く。」
心とは裏腹に強気に呟いた。
世の中が煩い。 そう 思う。
 こんなにも頑張っているのに、世の中は理不尽だ、と。
何か根拠がある訳でもないのに、 どうしようもなく つまらなかった。
近頃、いつもそうだ。
「おまえのせいだよっ。」
私は軽く男の背中を睨みつけながら、落としてしまった鞄を拾う。
と、目の前のショーウィンドウに目が留まった。
「ひな・・人形?」
そこに座っていたのは、 二体の微笑む人形だった。

 いつだっただろうか?
彼と共に、お雛様を並べた日は。
 2人の身長よりも高い真っ赤な台座に、 背伸びをしながら 人形を並べたのだっけ。
2人で遊びながら飲んだ甘酒がお腹に重くて、だからそれを吹き飛ばすように笑った。けれど彼はいつものように、優しく心配してくれて。
そう、あの頃はまだ 彼が居て。
 あの頃はまだ 2人で居て。

「はーぁ」
と私は大きく溜息をついた。
彼とは、最近話していない。彼、と言ってもただの、幼馴染。だからきっと、彼は私の気持ちになんて気付いていないだろう。
中学生にもなって『幼馴染』と言う肩書きは、一緒に遊ぶ対象にはならないのだ。性別が違えば尚更。周りの目が怖い。
彼のことが好き という気持ちは仲の良い友達にも隠し続けている。彼に声をかけることはできなかった・・・。
私は独り俯く。
 あの頃は そんなこと考えられなかったけれど・・・。
「あ、、遅刻しちゃうよ。」
私は、時計を確認して呟いた。
もう忘れる事にしたのだ。気持ちを伝える勇気なんて無いし、それならばあの頃の記憶は『良い思い出』として残しておきたい。
汚したくない。
だから、前を向くことにしたのだ。
それなのに たかが雛人形一つで思い出すなんて・・・
「馬鹿だよ、本当に。」
私は自分の頬をパシパシと叩いた。
友達もちゃんといる。 世の中は煩いけれど、でもちゃんとその中で私はそこそこに生きている。それで十分ではないか。
淋しくは・・・
「あ?愛歌じゃねぇの?」
「え??」
突然呼ばれた自分の名に、慌てて私は辺りを見回す。
そして、見つけてしまった。
たった今諦めたばかりの彼の姿を。
「おーっす。こんなとこでぼーっと突っ立ってどうしたんだよっ。遅刻するだろっ?」
「え??」
「お前、1人か?今日、友達休みなんだよな。丁度良いから、学校 一緒行こうぜ。」
「いや・・・あ、うん。」
私は彼から目が離せなかった。
驚きのあまり。 嬉しいあまり。
 混乱のあまり言葉が頭に入ってこない。
 一秒、 二秒・・・。
そして、頬が赤くなるのを感じた。
暑い。
 先刻まで寒かった筈なのにとても暑かった。
「・・・あん?なんか不味かったか?体調悪いんだったら、家に送ってくぜ。」
「いやそうじゃ 無いんだけど。」
彼の優しい笑みに、何と言葉を紡いで良いのか分からなかった。
 話している。 昔のように。
 それが、 とても嬉しくて。
ちらり、とショーウィンドウの方を伺った。
雛人形が、笑っている。
2人揃って、私たちを微笑みながら見ていた。
「変わらないね。たっちゃんは。」
「・・・何だよ 急に。変な奴。」
彼は、苦く笑って そして歩き出した。
私もそれに歩調を合わせる。
「あーでも。そうか。そう言えばこうやって話すの久しぶりだな。」
彼は事も無げにそう言った。
「そうだよ。クラス違っちゃったしね。」
軽い調子を合わせながら、しかし私は少し複雑な思いを抱く。
私にとって、彼と違うクラスだったことは 一大事だった。
けれど、彼にとってそれは・・・
「来年は 同じクラスだと良いよな。」
「え??」
「この1年、どおりでつまんなかった訳だ。」
にっこりと、満面に微笑んだ彼の顔は眩しくて、私はわざと前を向いた。
学校の方向を 向いた。
「どうでも良いじゃんそんなこと。」
それは、何処からどう見ても 照れ隠しだったけれど。
「冷てぇな。相変わらず。」
彼は、そんな事にも気付かない。
変わっていない。変わらない。
体調のことは物凄く気遣ってくれるのに、その他のことに対しては鈍感で。
そんな彼が大好きだったから。
寒く、無かった。 辛く、無かった。
ポカポカと温かい日差しが私たちを照らす。
私たちが結ばれた 訳じゃないけれど、 まだ ただの幼馴染だけれど 私の心は軽くなって。
 春が来るのが楽しみだった。


 貴方の夢は 桃と共に。



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後書き  (作:風名 2007.3.3 up:3.3 )

筋が出来上がってないと、意味不明な文章になっちゃいます。
これが良い例です。
雛人形、あんまし意味ないんでないの??って感じですね。

雛祭り企画ということで、旧暦の雛祭り・・・4月3日ですかね。
その頃までフリー小説に・・・します。
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