此処に響くのは 偽りの夜想曲(ノクターン)



++空想科学小説を嗤う++


 またつまらない物を見てしまった。
青年は、連れに歩調を合わせながら1人思考する。
外はもう、闇に支配されていた。
冬の寒さが肌に突き刺さる。
木々や建物等見えるもの全てがブラックホールの入り口に見え、病的に光る蛍光灯だけが漆黒に浮かび上がる。
「それでさ、あの怪物が出てきたときはほんと怖かったぁ。」
しんとした空気を壊す高い声で、彼女ははしゃいでいる。
本当に幸せそうな声が、この場には相応しくない。
腕をしっかりと掴まれているのが痛いのは、まぁ我慢するとして。
つるむのは嫌い、と日頃宣言している青年の立場上、
  この状況は誰かに見られたいものではなかった。
・・・まぁ、彼女から映画に誘われたら断るわけにも行かないし、見られる心配も無いけれど。
深夜ということを考慮に入れれば、 リスクは限りなく0に近かった。
「・・・それでもなるがままだと言うことは否めないなぁ。」
「何か言った?」
心の中で呟いたつもりが、声に出していたらしい。
 彼女は不安そうに青年の顔を覗きこむ。 
「別に。」
青年は出来る限り素っ気無く答えた。
「もしかして、怒ってる?」
「そんなことないよ。由美、楽しかったんだろ。」
「うん。 だけど、怒ってるでしょ?・・・ごめん、桜満の好み、聞いてなかったもんね。」
謝りながらも笑顔の彼女。
――そんなこと 今更言うのかい?
 青年は今度はちゃんと声に出さずに思った。

 空想科学小説・・・通称SFノベル
   今日見た映画も、あるSF小説を原作としているものだった。
SFに置いて登場頻度が多いメジャーな主題は、タイムマシンや宇宙人(エイリアン)と言った所だろうか。
 興味は無い。
   餓鬼の頃に散々読んだせいで、飽きてしまったというのもある。
 昔の小説には月旅行や潜水艦なんていうものもあったが、あれは今では現実だ。
 そういう意味で夢が無い。
 虚構(フィクション)と名乗ってはいるものの、現実(ノンフィクション)になった今、
    それらは最早「科学(サイエンス)」
面白みの欠片も無い、現し世の物語だ。
メジャーな方はどうだろう。
先程例に挙げた宇宙人に至っては説明するまでも無い。
 だって、人間がもう既に宇宙人なのだから。
 詳しく言うならば この地球上の生物全てが宇宙人。
 もうそれはもはや、当たり前すぎる事実で、 「科学」でさえも無い。
ではもう一つ、タイムマシンは?
 まず、この機械は実現しないということを宣言しよう。
 もしこれから先、そう言う風な機械が出来るのならこの世の中にはもう既に出来ている筈なのだ。
何故か?
 簡単だ。未来で作ったタイムマシンに乗って、彼もしくは彼女が過去に向かわない訳がないから。
そういう歴史が、もう既に刻まれていないといけないから。
 科学の力がどうこう言う以前に、この物語は終わっている。
終わっている物語を、 さらに続ける必要は無いじゃないか?
  虚構にも程がある。
   不可能な物語を、 人は面白いといわない。
 可能だが、実現できない物語こそ、 人は心を躍らせるのだ。
   青年は、そういう物語に会いたいと願い、
             もう既に 諦めていた。
全ての物語は、 現実過ぎる現実か、 夢過ぎる夢の上に成り立っていた。
 夢と現実は表裏一体。
  そう言う物語は 何処にも無かった。 
  何処にも・・・ そう 今日見た映画の中にだって。 

 不幸なことに、彼女の方は虚構好きで、 青年はそれに付き合わされてきた。
 これまでずっと。
 これからもずっと。

「桜満、 今度は桜満の好きな映画にしようよ。」
彼女はにっこりと無邪気に笑いかけてくる。
「いいよ、別に。これまで通りでさ。」
「そんな事言わないでよ。」
「ホントに良いんだ。」
青年は、言葉を噛み締めるように言った。
 いつも 心の中では文句言ってるけど、
   俺に見たい映画がある訳でもないし。
「・・・ 桜満さぁ、 実は映画嫌いとか?」
「大丈夫だよ。」
強がりでも何でもなく、大丈夫だった。
 ただ、 つまらないだけで。
「それは、肯定なのかな?」
「はい・・・いや、否定しない否定かな。」
「何其れ?」
「わからない。」
夢を見たくないだけで、 夢を見たいだけだよ、 なんてこと、
 口にしたところで変人にしかならないから止めた。
と、突然 周りに殺気を感じる。
蛍光灯の光のせいで、闇の中にその姿を認めることは出来ない。
「・・・由美、何か感じるか?」
声を潜めて問いかける。
「そうだね・・・ 化け物が十匹くらい?」
あっさりとした彼女の答えには、またか、というような呆れた雰囲気が混じっていた。
「桜満もモテモテだよね。」
「お前だけで十分なんだよな。 間に合ってます、ての。」
青年は軽口を叩きながら、上着の内側に手を入れる。
 と、次の瞬間には光り輝く刀をその手に握っていた。
「由美もなんかしろよ?」
「言われなくても 準備してますっての。」
見ると、彼女の方は両手に短剣を構え 胸の前で交差させていた。
「じゃぁ、行きますか。」
「・・・ 推定所要時間は5分ね。」
「OK。」


 俺たちの音楽(ストーリー)は、 現実(リアル)な虚構

  夢があって、 絶対に本当にならない

  それでいてこの世の中にぴったり合った、

                    本当の物語



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後書き  (作:風名 2006.10.28 up:10.28 )

えーと、某友人(以下友ちゃん《笑》・・・じゃなくて沙羅ちゃんです)にお題を貰って書いた小説第一弾です。
如何でしょうか、沙羅ちゃん?
・・・イメージしてるキャラクターが居るそうですが、生憎私はその漫画はアニメしか
見ていないため、まだ登場してないんですよ。
というわけで、完全オリジナル。
あ、でも今日予告編に出てたイメージを ちょっこっと加えさせてもらいました。
・・・土曜日の朝のアニメ、って言ったらばれただろうな。
《多分、全国同じ時間であってると思いますよ。》
私自身はSF大好きです。
もち、タイムマシンも大丈夫!! というか楽しんで読みました。
スターウォーズの大ファン、ってことからもSF好きが分かってもらえることと思います。

お題には空想科学小説とありますがうまく運べず、映画っぽくなってしまいました。
ちゃんと、桜満(おうま)が考え事している場面では小説の話題にしてます。
映画も、小説原作ってことで・・・(言い訳です すみません。)

尚、文中にある( )は、そう言う風に読んでもらえたら嬉しいな、という意味です。
簡単に言うと、読み仮名、ということで。
以下、同じ語句には読み仮名をつけていませんが、 その括弧内の読み方で読んで頂きたい
と思います。

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