もう少し、人生を楽しもうよ。


+明日+

やけに派手なメロディーが響く。
 誰だ、こんな時間に、趣味の悪い音楽かける奴... って俺の着メロか。
溜息をついて、真っ赤な携帯を手に取る。
「もしもし?」
「 あっ... 健斗? ごめん。寝てた?」
綺麗な声がすまなそうに言う。
俺は無意識に姿勢を正していた。 
「いや・・・朝比奈か? どうした?」
「 うん。 明日のことなんだけど。」
「明日?」
―― 何か約束してたっけ。
俺は、ボサボサの頭を掻く。
 明日、 明日... んっと 思い出せない。
「 明日、何だっけ?」
「えー 何言ってるの。 明日は十月十日 健斗の誕生日だよ。」
朝比奈が可笑しそうにカラカラと笑う。
その笑い声を聞きながら、 明日が旧体育の日・・・
  俺の誕生日だということを机上のカレンダーで確認する。
 一昨年から祭日で無くなったその日は、他の平日の中に埋もれている。
 そういえば、マークさえ付けてなかったんだな、俺。
「 ・・・ まさか本当に忘れてたわけないよね?」
一通り笑ったあと、朝比奈が確認するように問う。
その声がいやに真面目なのに、 俺の方が笑いそうになった。
「いや、忘れてた。」
「そんな!!」
飾り無く、しかしはっきりと驚いた声が聞こえてくる。
当然といえば当然なのだろう。自分の誕生日を忘れる馬鹿な中学生は現代には少ない。
「……で、 誕生日がどうかしたのか?」
静まってしまった朝比奈を促すように俺は聞いた。
俺の誕生日を思い出させてくれたことはありがたいけど、でも、それが朝比奈に何の関係がある?
「 あ、 うん。 あのね。
 明日、皆でご飯食べに行こうかな、と思って。 どう?」
どうもこうも。 俺の為に、ってのか?
ただ、俺の為だけなら面倒くさい。 学校の奴等はウザいんだよ。
 それに 塾の宿題がまだ終わってない。
「パス。」
「えー なんでー?」
ガッカリした朝比奈の表情が頭に浮かび、 罪悪感に襲われる。
 電話の相手はそれほど落ち込んだ声を出した。
「だって面倒じゃないか。」
勉強のことは言わない。 ただでさえ、がり勉と呼ばれてるから。
「でも、みんなプレゼント用意するってよ。」
俺に、そんなに親しい友達がいただろうか?
 少なくとも、俺は周りの奴にプレゼントなんてしたことがないのだが。
「 みんなって誰だよ?」
「えーと、 亮太と瑞貴でしょ、 森にたー君に、菜穂と里香と ...私!」
名前を聞くと、 納得できなくもないメンバーではあるが。 
しかし、 それはそれで悪いと思った。
繰り返すが、俺はプレゼントを用意した事がないのだから。
「 いーよ、 わざわざ。 皆忙しいだろ?」
「... 健斗、 意地っ張りだよ。 昔からそうなんだから。 もっと素直になりなよ。 」
いじけたような朝比奈の声。
俺は ほんの少し考えた。
 それは 本当に一瞬...
 たった一瞬の思考だけで、 俺の心は決まった。
「 ... そうだな、 行きたいかも しれない。」
「うん、 じゃぁ 今から言うことメモしてね。」
待ち合わせ場所、 時間等等、 基本事項を確認した後、 朝比奈は声だけでも十分わかる笑みを浮かべこう言った。
「 健斗、 無理しないで良いんじゃない。
 親の言われるまま勉強して、 遊ぶの我慢して 。 そんなの 疲れるだけだよ。」
「え?」
「明日は息抜きだから。 ほんとはじけちゃおうね。」
ツーツー
電話は切れた。
 俺はそれでも携帯電話を放せなかった。
――  無理してる... かぁ。
 そうかもしれなかった。
少なくとも、馬鹿どもと付き合うのは、 馬鹿がすること と思いこもうとしていたから。
親の言葉を 崇めようと努力していたから。
「... はじけられるかなぁ。」
羽目を外したことは無かった。
 でも、朝比奈とならできるかもしれない。
―― くそっ、 楽しみじゃねーかよ。
俺は暗闇の中 一人笑った。


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後書き  (作:風名 2006.5.14 up:2007.2.5 )

去年 しかも大分前に書いたものです。
最近、なんかかけないんですよね〜 ホムペ用の文章が。
それで昔のを引っ張り出してきました。所謂お蔵出し。
なんか恥ずかしいです...。
まぁそんな感じで。



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