幾つかの事件を越えて僕らは大人に・・・なれなかった
* *
ねぇ知ってる?
鳥は飛べるんだよ
ねぇ知ってる?
魚は泳げるんだよ
そんな風に彼は笑っていた
当たり前のことなのに
僕はそう思いながらも、ただ只管に歩を進める
知らねぇ訳、ないだろう?
ねぇ知ってる?
空は蒼いんだよ
ねぇ知ってる?
雲は流れるんだよ
僕に並びながら彼は続ける
左を向きつつ軽く視線を下げると、
嬉しそうに空を見上げる彼がいた
当たり前っつってんだよ!
ねぇ知ってる?
明日は晴れるんだよ
ねぇ知ってる?
自然が教えてくれるんだ
彼の瞳は空を映す
深い深いその色に吸い込まれまいと
僕は慌てて目を逸らす
適当なこと言うんじゃねぇ
ねぇ知ってる?
空ってとっても広いんだよ
ねぇ知ってる?
あの向こうには行けないんだよ
彼の口調は変わらない
嬉しそうで楽しそうなその声に
僕は小さく溜息を吐いた
わかったよ、わかったからもう止めろよ
ねぇ知ってる?
人間ってちっぽけなんだよ
ねぇ知ってる?
それでも素晴らしいんだよ
彼の視線が僕を捕らえる
立ち止まった僕はしかしそれには答えずに
広い空を仰ぎ見た
ほら着いたぜ 青空の町
小高くなった丘の上
呟いた僕の隣に、もう彼はいない
彼は一つだけ間違っていて、
空の向こうへ行けたから
お兄ちゃん ありがとう
そんな声が聞こえた気がした
* *
好きであったら死ねるなんて
嫌いであったら殺せるなんて
そんなのは嘘
殺人鬼は偽りの世界に首を振る
ブラウン管を通した報道はチラチラ揺れる
逮捕された誰かは殺人鬼ではない
だからこそ殺人鬼には分かるのだ
彼が人を殺した理由が
別に怨みなんかどーだって良い
結局は
『殺したい』それだけなんだ
一般人なんてそんなものだ
儚い衝動だよな、と彼は暢気にそう思う
ナイフを研ぎながら、揺れる画面を見つめる
2つ目のニュースも殺人事件だった
『無差別殺人』
ゆらゆらと躍る文字に
彼はほーと息を吐く
恥ずかしいことしてくれんじゃん
人間の欲望のままに動く奴は
ただ人間の欲望のままに動いてるだけだ
そんな奴は人間でも鬼でもない
ただの獣
いや獣にさえも失礼か
被害者は小さな男の子
深い空色の透き通った瞳を持った可愛らしい少年だった
お気の毒に・・・な
殺人鬼は研ぎ終えたナイフを装着すると
音もなく立ち上がる
衝動じゃない
欲望でもない
ただ己の使命を遂行するために
後にはただ空しく光る画面が残る
三つ目のニュースはイッシュウカンマエノダレカノジサツ
* *
死にたいんだと彼は言った
私はそれを笑い飛ばした
彼は死んだとその後聞いた
最後に会ったのは私だったそうだ
他人(ヒト)の命だけど人間(ヒト)の命
容易く捨てて 良かったんだろうか
私が救えたかもしれない命を
捨てたのは私だ
笑って 哂って 飛ばしたのは
紛れもない私なんだ
彼はいきたくないと言っていた
それならいかなければ良いと答えた
彼は何処に行きたくなかったのか
私はそれを思うととても怖くなる
手首についた幾筋もの傷を
ただ無感動に眺めてみた
左手に握られたのは小さなナイフ
・・・・私はどこにもいきたくないよ
* *
やり遂げた、そんな思いは何処にも無かった
人生なんてそんなもんか?
何も変わらない
何をしたってこの世界は変わらないんだ
でも俺は人を殺した
あいつが死んだのは奴のせいだと、
俺はそう思ってたから
奴が死ぬ理由なんて他になかったんだ
渡された朝刊をぼんやり手に取った
一面には俺の顔写真
凶悪犯罪との文字が躍る
あいつの自殺は取り上げられなかったのに
俺の殺人は悪だって言うらしい
そんなもん、なんだな。
はは
ははははは
笑いがこみ上げてくる
可笑しい
可笑しい!
この世の中の回り方は
どれだけ頑張っても理解できねぇや
な?
* *
泣けないよ
お前が見てるなら
* *
理由なんて要らない
だから生きてんだろ
それ以上 他の奴に迷惑かけんなよ
* *
死ぬことには理由がいるのかな
* *
正義なんてどこにもない
* *
真実だってどこにもない
最近無差別殺人多くないですか?
やめてほしいです
ほんとにやめてほしい。。
でも 文章的に ↑はどうなんだろう・・・・
・・・ ほら私 捻くれてるから(自分で言うな
殺人鬼 って言葉がでるあたり流石戯言読者(?