例えば灰色の空の下、
  辺りが真っ白になる季節
    色の濁った池の畔に
      2人きりでいるとして・・・
    


++例えば天候は曇り++


「ピクニック?」
「そっ。いっつも映画とかだからさ、 たまには外でのんびりしたいなってね。」
彼女がそう持ちかけてきたのは、ある放課後のことだった。
「でも、外は危険じゃないか?」
「何よ、小学生の親みたいなこと言わないの。」
少し怒ったように頬を膨らませる。
 それがまた可愛い なんて、 関係の無い思考がいつものように働いた。
それを隠すように、言葉を捜す。
「でも、俺等は特別・・・。」
「じゃないわ。普通の高校生よ。」
はっきりと言い切る彼女に、言論で勝ったことは無い。
 勝とうとも思わない。
助けを求めて教室を見回してみる。 生憎皆さんお取り込み中だった。
 彼女を見ると満面の笑み。期待と希望に輝く眸で此方を見ている。
青年は仕方なく頷いた。
「分かったよ。今度の日曜だな?」
「そっ。 中山の頂上に行こうね。」
と、 彼女はにっこりと笑って言った。

日曜日、山の頂上で彼等は2人座っていた。
側には空っぽの弁当箱が2つ、 こちらも並んで座っている。
「・・・眺め、よくないなぁ。」
彼女は不満そうに口を尖らせた。
「霧が出たからな。仕方ないよ。」
青年は いい加減な口調で慰めながらシートに横になる。
「でも、折角外に出てきたのに。」
―― 桜満の言う所の『危険』承知でさ。
彼女は座ったまま、街のある方角に懸命に首を伸ばす。
しかし、そこには真っ白な空気しか見えなかった。
あーぁ、と溜息が聞こえた。
「後悔してるのか?」
青年は目を閉じたまま、問いかける。
「景色を見ることも出来ないし、これならいつものように映画館の方が良かったんじゃねぇの?」
慣れないことはするもんじゃないよ。
と、心の中で付け加えてみた。
 目を瞑っているので分からないが、 彼女の表情は相当曇ってるだろうな、と思う。
来週も何かの遊びに付き合ってやるか、なんて考えてみたりもしたのだが、
「そんなことないよ。」
いつもの明るい調子で彼女は答えた。
「桜満、いっつも映画の時つまんなそうじゃん。何にもしゃべんないし。
 でも、今日はいっぱいしゃべってくれるよ。」
予想と違った反応に、驚いて目を開ける。
 目の前に、それこそ文字通り目前に、彼女の顔があった。
「??」
心臓が一瞬止まる。
「フフ、びっくりした?」
青年を覗き込んでいた体勢から、元に戻りながら少女は笑った。
「・・・本当は景色なんてどうでも良いし。
 季節だって天気だって、 どうなったって良いんだよね。 桜満さえいれば。
 映画の途中はしゃべれないけど、ピクニックだったらしながらしゃべれるよ。
 だから 私は、此処に来て良かったと思ってる。」
彼女の目は、空を見ていた。
 真っ白で何も見えない、 重たい空を。
 冷たい空気を運ぶ、暗い空を。
「ふーん。」
青年も、その同じ空を眺めた。
 真っ白 真っ白 真っ白。
「俺も、そうなのかもな。」
自然と呟きが漏れた。
「え?」
「いや、 俺も外出たかったんだよなってね。
 いつまでも結界の中にいるんじゃつまんない。
 天気なんて どうでも良いさ。中の濁った空気から 抜け出せさえすればね。」
「そうだよ。」
何も可笑しい事は無かったけれど、カラカラと2人で笑う。
胸を締め付けていた何かが 少し解けるような気がした。
  これまでは締め付けられていたことにさえ気付かなかった何かが、 ホロリと・・・。
冷たい風が、彼女の髪を揺らす。
 石鹸の心地よい香りが鼻に届いた。
「・・・それに、由美と居る時間は これまでの人生の中で一番幸せだと感じられるし・・・」
いつもは照れくさくて言えない言葉が、素直に 流暢に流れ出る。
「誘ってくれてありがとな。」
「本当?!」
彼女の眸が俺を捕らえる。
「本当に、そう思ってる?」
「嘘言ってどうする?」
次の瞬間、白かった視界いっぱいに無邪気な笑みが映った。
  彼女が、 零れるような笑い顔で明るく言う。
「大好きだよっ、桜満。」


 例えば、 そこに君がいて
 も一つおまけに 俺がいて
  それさえあれば十分だから 
     俺は笑っていられるよ。


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後書き  (作:風名 2006.11.6 up:2006.11.6 )

沙羅ちゃんのお題第二弾です。
 お題、カッコいいですよね。 それに見合う文章になってるか不安です。
なってないよな・・・++;;
ごめんなさい 沙羅ちゃん。
沙羅ちゃんから頂いたお題は全部で10個です。
どれだけかかるか分からないけど、頑張って仕上げます


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